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父の思い出

ながーい ながーい おはなし


 

ながーい ながーい おはなし
竹内好
 私が幼い頃、眠る前におはなしをしてくれるのは、父でした。ふとんにもぐりこむと、添い寝の父は、自分の足に私の足をはさんでくれました。暑がり屋の父といっしょのふとんは、すぐに暖かくなりました。


天井から下がっている電灯のひもをひっぱると、部屋は暗くなります。暗い中で、父はおはなしを始めます。
長いひも
 むかーし、むかーし、あるところに、ちいさなひろこちゃんがいました。ひろこちゃんがあそんでいると、空から1本のひもが降りてきました。ひろこちゃんがひもをひっぱると、ひもはぐいっとおりてきました。ながーい、ながーいひもです。

 ひろこちゃんが、またひもをひっぱると、ながーいひもがおりてきます。またひもをひっぱると、ながーいひもがおりてきます。
ひもをひっぱると、ながーいひもがおりてきて、ひっぱると、ながーいひもがおりてきて、ながーいひもがおりてきて・・・ ながーいひもが、ながーいひもが、ながーい、ながーい、ながーい、ながーい、ながーい・・・
     
 私の記憶は、ここで止まります。
もうすこし大きくなって、自分で絵本を読めるようになると、 おはなしは最後に、「めでたし、めでたし」とか「どっと、はらい」とか「とっぴんぱらりの、ぷう」とかでおしまいになります。あれ~、おかしいなあ、そんなのあったかなあ? 記憶をたどってみても、思い出せません。そのかわりに、私には‘人の話を聞いていると、しっかりと眠くなる‘という習慣が、身につきました。

 父が他界してずっとたった今、ようやく父の本を読むようになりました。そこで、びっくりする言葉に会いました。父は、こんなことを書いているのです。「ものごとの、おわりがないのはいやだ。」「永久とか永遠とかいうものは、きらいだ。」

いやー、おどろいた~! びっくりした~! それって、ねえ、お父さん、あのおはなしの続きはどうなるの?

裕子


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